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第3話 訓練の日々、そして変化する常識

Penulis: みみっく
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-26 20:38:09

 翌日から、俺としては余計なお世話だと思っていた剣術、武術、ナイフ術、暗殺術、狩りの仕方を教えてくれる日々が続いた。初めは嫌々習っていたが、この体は肉体の基本能力が異常に高く、面白いように体が動き、覚えも早くて楽しかった。気にして不安に思っていた魔法も適性があり、基本を教わると、勝手に実験をして狩りに取り入れたりもした。

「ちゃんと毎日練習をしないと、いざという時に体が動かないからな!」

「ボク、いつサボった? 楽しく練習してるよ?」

 言われなくても、面白くて勝手に練習をして過ごしていた。体を動かすのが、こんなに楽しいなんて知らなかった!

「少しは、親らしいことを言わせてくれ!」

 トリスタンが頭を、いつものようにガシガシと撫でてくる。まだ1ヶ月も経っていないのに、俺たちは仲良く暮らしている。

「でも、剣術は敵わないな……」

 残念そうに言うと、トリスタンに大笑いされた。むぅ……大真面目に言ってるのにぃ~。

「剣術を始めて1ヶ月の坊主が、数十年剣術をしてる者に剣術で勝てるわけないだろ。それに、体格も力も違うしな」

「むぅ……明日は、お父さんに勝つ!」

 あっ。思わず……「お父さん」って言っちゃったよ。トリスタン……気づいてる……?

 ゆっくりと振り向くと、ニターと微笑むトリスタンが俺を見つめていた。

「さ、昼食にするか!」

 また、余計な気遣いかな……? あまり、こういう話はしないんだけどね。親子関係とか……俺は、すでに父親だと思ってるけど。トリスタンも息子のように接してくれるし、怒ってもくれる。それに、この世界の常識をいろいろと教えてくれた。

 お父さんと呼んだのがバレているし、喜んでいるトリスタンの表情を見てしまったので、この日を境にトリスタンをお父さんと呼ぶようになった。

 ――衝撃の狩り

 週に一度くらいのペースで狩りに同行し、狩りがどんなものか見せてくれた。俺が想像していた常識とはかけ離れていた。普通さ……弓とか遠距離の武器を使うじゃん? 魔法とかさ? なんで、剣術や暗殺術が得意なのに……拳!?

「この辺りは、巨大イノシシの縄張りだから気を付けろよ。あいつらは縄張りに敏感だから気づかれたら襲ってくる。そこが良いんだがな! 探す手間が省けるしな。お前はここで気配を消して見学してろな」

 そう言うと、スタスタと森のけもの道を歩き出した。

 ガサゴソと音が大きく聞こえ、獣の息遣いも近くなってくる。獣が通るたびに木や草が大きく揺れ、メシメシと木が折れる音も聞こえるほど巨大なイノシシに似た違う生物が現れた。イノシシの大きさじゃないだろ……あれ。見た目を小さくすればイノシシだけど……。

 現れた巨大イノシシが、興奮し威嚇しているのが伝わってくる。トリスタンをじっと見つめ、鼻息を荒くしながら土ぼこりを舞い上げ、威圧的なオーラを放ちドカッと音を立てて突進してきた。体がデカいとは思わせないスピードが出ている。まるでダンプカーが突っ込んでくるような迫力だった。

「お父さん! 逃げてっ! あぶない!!」

 俺が叫ぶが、トリスタンは反応せず、腰を低く落として体術の構えを取った。その拳の周りがゆらゆらと歪んで見えてきた。

 巨大イノシシが目の前まで迫ると、トリスタンも合わせて一歩踏み出し、巨大イノシシの頭に拳を叩き込んだ。ドゴォーン!と轟音が響き渡り、辺りが静まり返った。二人の動きが止まり、巨大イノシシが横にドーンと倒れた。

 これ……狩りなの? どちらかと言うと魔獣やモンスターの討伐じゃないの? 狩りってさ……潜んで静かにして獲物に気づかれないようにして遠距離攻撃をして仕留めるものだと思ってるんだけど。何度も言うけどさぁ。

「どうだ? これが狩りだぞ!」

 この、うそつきっ! こんなの狩りじゃないってば!

「……なんで拳なの? お父さんって剣やナイフが得意でしょ?」

「あぁ……。あいつに効かないんだよ。剣やナイフが負けて折れるんだわ」

 ん!? それって、鉄より強い拳なんだ……? トリスタンに、げんこつされたら死ぬな。……こわっ!

「お父さん、拳大丈夫?? ちょっと見せてー?」

 トリスタンの手を掴むと、拳に血が付いている。

「わっ。血、血が出てる!」

 慌てた俺を見て微笑み、優しく頭を撫でてきた。

「あはは。人に心配されるのは嬉しいもんだな! これは、俺の血じゃなくて獲物の血だぞ」

 拳を自分の服で拭うと、改めて見せてくれた。……うん。無傷だね! 焦らせないでよね……。

「ボクが、大きくなったら……お父さんに武器を買ってあげるから、それを使ってよ。お父さんは……そうだなー大きなハンマーとか似合いそう!」

「ユウからのプレゼントは嬉しいんだが……ハンマーは、持ち手が折れたり、曲がったりするんだ」

 ガッカリした表情で言ってきた。

「そ、そうなんだ……気を付けてね」

 もう、それしか言えない。

「でも、そのうちユウもできるようになるだろ」

 トリスタンが呟くように言った。いやいや……ムリです。突進してくるダンプカーを殴るような自殺行為はしたくないってっ!

 そう思っていたら数か月後に、自分も同じように普通サイズのイノシシを拳で倒せるようになっていた。

「あ、あれ? ……なんで??」

 自分でもよくわからなくて首を傾げていたら、トリスタンが説明をしてくれた。

「ユウは、無意識に身体強化を扱えるみたいだからな。自然と使えてるぞ。今度から意識して使う練習をするのも良いと思うぞ!」

 と、いつものように頭をガシガシと撫でられた。

 だんだんとトリスタンの常識が、俺の常識になってきていた。だって、周りに人がいなくて、俺にとっての常識がトリスタンだったから……。

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